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東京高等裁判所 昭和33年(う)2026号 判決

被告人 大沢信吉こと金四信

主文

本件各控訴を棄却する。

〔抄 録〕

右の者に対する各窃盗被告事件について、昭和三十三年八月三十日に台東簡易裁判所が、同年十月十日に東京簡易裁判所がそれぞれ言い渡した有罪判決に対して、いずれも被告人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は検事上田朋臣関与のうえ併合して審理を遂げ、左のとおり判決する。

理由

(前略)

被告人の各控訴趣意について。

所論に鑑み本件各記録を調査するに、被告人が昭和三十三年八月三十日台東簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年二月に処せられ、次いで同年十月十日東京簡易裁判所で前同様窃盗罪により懲役六月に処せられたことは記録上明らかであるところ、被告人は、右は本来併合罪の関係にあつたものであるから当然併合して審理されるべきものであるのに拘わらず分離して起訴され審理された結果二個の判決の言渡を受けることになつたのは被告人にとつて量刑上不利であり、また不当な法の乱用である旨主張するのであるが、併合罪の関係にある数罪は必ずしも常に同一の裁判所において同時に審判されなければならないものではない。従つて所論のように併合罪の関係にある二罪について各別に起訴せられ、その結果前記のように二個の裁判がなされることになつたとしても、これをもつて不法不当の手続による裁判であるということはできないのであつて、この点に関する論旨は理由がない。

被告人は更に前記のように併合罪の関係にある二罪につき二個の判決の言い渡しがあつたのは量刑上不利であると主張するのであるが、所論のように併合罪の関係にある二罪が分離して別箇の裁判所に起訴せられたため二個の判決の言い渡を受けるに至つたからといつて、その一事をとらえて直ちに量刑上被告人に不利な結果を招来したものと断定することはできないのであつて、量刑の当否は当該事案につき個々具体的に判断して決定すべきものであるといわなければならない。

よつて原審の量刑の当否について判断するに、併合罪の関係にある二罪が分離して別箇の裁判所に起訴され、各事件につき第一審判決があり、同一の裁判所に各控訴申立があつたため、控訴裁判所でその弁論を併合した場合において、控訴裁判所がその刑の量定の当否を判断するについては、現行刑事訴訟法のもとでは、控訴審は覆審または続審ではなくて事後審であるから、第一審裁判所が言い渡した判決について各別に、その認定した事実および記録にあらわれている諸般の情状等を綜合考慮して、その当否を判定すべきものであると解しなければならない。

それゆえ先ず台東簡易裁判所を第一審とする事件について審査するに、被告人の本件犯罪、態様および被告人が原判示のように常習累犯窃盗の罪によつて昭和二十八年六月十九日東京地方裁判所で懲役四年に処せられている事実その他記録にあらわれている諸般の情状を勘案するときは、原審の量刑はまことに相当であつて、この点に関する論旨は理由がない。

次に東京簡易裁判所を第一審とする事件について審査するに原審がその適法に認定した事実について被告人を懲役六月に処する言い渡しをしたのは、被告人の犯歴とその罪質および本件犯罪の種類、態様その他記録にあらわれている諸般の情状、特に本件犯罪と併合罪の関係にある犯罪について既に前記のように台東簡易裁判所で懲役一年二月に処する判決の言い渡しを受けている事実を綜合考慮したうえでのことであると認められるのであつて、本件犯罪事実および前記諸般の犯情を綜合し、また前記のように併合罪の一部につき既に判決の言い渡しのあつた事実を斟酌して考えれば原審の量刑はまことに相当であり、所論の事情を考慮に入れても何等不当過重の刑とは認められない。この点に関する論旨も理由がない。

(滝沢 久永 八田)

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